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病で胸を失ってみて分かったホントのこと

病で胸を失ってみて分かったホントのこ

 女性にとって乳房を切除しなければならないことは本当に辛いことです。しかし、現在の医療においては、乳がんは手術で切除できる段階のものは切除するのが第一の治療法となる病です。費用や術後の身体の回復の仕方など、実際に経験してみて分かったことも含めて乳がん治療中のファイナンシャルプランナーの目線からご紹介します。

ソフィア | ファイナンシャルプランナー
自身の乳がん治療の経験とお金の専門家としての視点から、乳がん治療で役立つお金の情報のコンテンツの発信や、乳がん経験者のコミュニティーの運営を行っています。

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手術後の審美性とコスト

 乳がんの手術の術式には大きく分けると、がん細胞のある側の乳房の乳腺組織を全て摘出する乳房全切除術と、がん細胞のある部分を取り除く乳房部分切除術(乳房温存手術)があります。どちらの術式で行うかは、がん細胞のある組織の範囲によります。がん細胞が乳房の4分の1の範囲を超えて分布している場合は乳房全切除術の1択になります。腋窩リンパ節に転移がある場合は転移の個数や度合いに応じて手術時にリンパ節を摘出するリンパ節郭清も同時に行います。手術が大がかりになればなるほどコストもかかることになります。

 乳輪・乳頭の付近にがん細胞がなければ乳輪・乳頭を温存することは可能になります。しかし、残せるとはいっても実際には手術後に乳輪乳頭の位置や方向が不自然な状態になってしまうケースも多いです。近年では乳房の再建手術の技術も発達してきているので、乳房部分切除術が可能な人の場合でも変形した乳房を残すよりも全摘出して再建手術をすることを選択する人もいるようです。乳房部分切除術で部分的に切除した場合は、切除した部分に術後に脂肪注入して補うこともできます。しかし、その費用は保険適用ではありません。注入する量が多ければ多いほどコストもかかりますし、価格設定は病院によります。再建手術が専門の形成外科の医師に話を聞いたところによると、注入した脂肪はその半分近くが体内に吸収されていってしまうため、期間を空けて何度も注入する必要があるようです。再建手術は現在は保険適用で受けることができるようになっていますから、自費で1回100万円近くかかる脂肪注入をするよりも自己負担の金額は軽くなります。再建手術の3割の自己負担額は自家組織再建で30~60万、インプラントを使用した再建で40~50万(ティッシュエクスパンダー挿入10~20万円、インプラント挿入30万円程度)*¹となっています。乳頭の再建も保険適用で可能です。全摘出して乳房再建術を保険適用で受ける方が、あくまで初期段階のコスト面のみの比較ですが、負担は少なくて済むことになります。

 現代の再建手術の技術は進化していて、再建手術直後の症例写真では健側とほとんど変わらない程に再現できているように見えます。しかし、実際にはそう単純な話でもないようです。例えば、再建手術にはインプラントを入れる方法と自分の身体の別の部位を移植する自家組織再建がありますが、インプラントは身体の負担も少なく入院期間が3~5日間で短く済む(自家組織再建は10日前後)メリットがありますが、見た目が不自然になりやすくインプラントの耐用年数も決まっているので入れ替えや修正のために何度も手術をしなければいけないというデメリットもあります。費用の負担もその分増えることになります。

手術でかかる費用

 乳がんの手術でかかる費用には公的保険が適用される費用と適用されない費用があります。入院費・手術費用などの医療費は適用されますが、差額ベッド代・食事代などは適用されません。先進医療にかかる費用も保険適用外になります。

公的保険適用内の費用

 乳房全切除術でリンパ節郭清ありの手術を2020年に実際に受けたときの入院費・手術費用とその明細(10-1)を参考まで公開します。費用は術式や医療機関によって変わってきます。この公的保険適用内の費用以外に公的保険適用外の費用がかかります。

入院手術費用の例(乳房全切除術、リンパ節郭清ありの場合)
(10-1)入院手術費用の例(乳房全切除術、、リンパ節郭清ありの場合)

 公的保険適用内の費用は実際には、高額療養費制度が適用されて最終的に支払う金額が決定することになります。所得区分によって自己負担額の月額の上限が定められていますが、69歳以下の場合は同じ医療機関でも入院・外来・歯科にわけて計算するという点は注意が必要です。

 上記の乳房切除術リンパ節郭清ありの例の場合の3割自己負担額は289,989円でしたので、所得区分ごとに高額療養費制度の適用後に実際に支払う手術費用は以下のようになります。(2021年現在)

高額療養費制度の適用後の手術費用の例(所得区分ごと)
(10-2)高額療養費制度の適用後の手術費用の例(所得区分ごと)

 乳がん治療における高額療養費制度については以下の記事でも詳しく解説しています。
乳がんの入院と通院治療にかかる費用は一体いくらなのか?
放射線治療1回あたりの費用と自己負担額を抑えるポイント

公的保険適用外の費用

 差額ベッド代と食事代は日額で加算されるため、入院日数が長ければ長いほどコストがかかります。入院期間は、乳房部分切除術で3日程度、乳房全切除術で10日程度です。

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食事代

 食事代は1食ごとに費用がかかりますが、自己負担額は所得区分によって異なります。

入院中の食事代の自己負担額
(10-3)入院中の食事代の自己負担額

タオル・パジャマなど

 タオルやパジャマのレンタルサービスを外部の業者に委託している病院では、1日200~600円程度が相場のようです。

術後の身体はどうなるのか

術後の痛みはいつまで続くのか

 乳房全切除術でリンパ節郭清も行うと、手術によっていくつもの神経が断絶された痛みがかなり強く出ます。切除した側の腋の下を中心に胸と上腕内側の範囲に火傷をしたような痛みや身体に挿入しているドレーンが神経にあたる痛みを感じます。上腕内側から指先まで走る筋がつったような痛みに苦しみもがいて睡眠中に目が覚めることも頻繁にありましたが、通常の痛み止めの薬を飲んでもこの種類の痛みには効果はありませんでした。手術の麻酔から覚めた直後をピークにして日に日に痛みの度合いや頻度は減少してゆき10日後ごろには腕を動かさなければ痛まない程度によくなりますが、ドレーンを抜くとまたしばらくは痛くなります。創部そのものの痛みは2週間もすれば、ときどきズキズキ痛むことがある程度になります。

リハビリテーションの効果

 どの程度の後遺症が出るかは手術の内容によるところがあります。部分切除術でリンパ節郭清がなければ手術による後遺症はほぼ無いようで、手術直後に麻酔から覚めたらすぐにそれまでとほとんど変わらずに活動できる人が多いです。私の場合は乳房切除術と同時に深いところまで腋窩リンパ節郭清を行ったため、術後は手術をした側の腕を上げようとしても痛みが増すだけで腕や肩に重りでもつけているかのように全く上がらなくなりました。術後の経過が順調であれば数日後からリハビリテーションを開始します。10日後に退院するころには80度近くまでは上がるようにはなりましたが、そこから大変でした。外科の医師によると術後3週間ぐらい経ったころは上腕の内側が硬くなりやすいらしく、腕を上げようとすると(10-4)の写真の矢印の箇所のように硬い筋のようなものが浮き出てきて引っ張られてそれ以上は上がりません。ドレーンを外した後で行き場を失ったリンパ液が腋の下に溜まって硬いコブのようになっていたり、自分の身体が一体どんなことになっているのか頭と心がなかなかついて行けませんでした。リハビリテーションをしっかりしないと一生腕が上がらない身体になってしまうという恐怖から一生懸命やり過ぎて痛みが増して中断したり、行った直後は肩周りが柔らかくなって腕が上がるようになってきても翌日はぶり返して硬くなるのを小刻みに繰り返しながら徐々にという感じで、腕を真上にバンザイの状態まで完全に上げられるまでには4~5ヶ月はかかりました。手術後に放射線治療を受けると硬くなりやすいです(放射線治療を受けたときのことはこちらの記事)。術後半年でも、腕を大きく動かそうとすると肩や上腕が痛み、完全に元通りにまで回復するというわけでもありません。

術後3週間の時点では腕の上がり具合はここまでが限界だった
(10-4)術後3週間
この時点では腕の上がり具合はここまでが限界だった

術後の日常生活

 左右のバランスが変わった身体は、乳房を切除した側が麻痺していて胸・腋・肩が常に強い力で後方に引っ張られて上半身がねじれているような感覚がしました。術前とは力のかかり方や身体の使い方が変わることで、背中や肩が痛くなったり手術した側の膝が痛くなったりもします。

 当然ながら手術直後の日常生活ではできないことがたくさん出てきます。頭にまで手が届かないので、頭部を洗ったりするのは健側の片方の手で行うしかないですし、健側の肩先を洗うのはどうやっても難しいです。高いところに置かれたものは自分では取れないですし、乳房を切除したあとの胸や上腕は常に痺れていて瓶などの蓋を開けるのも力が入らなくて難しくなります。

 洋服は前開きのものがベストですが、身ごろや袖の幅がゆったりとしたデザインのものであれば手術した側の腕に袖を通してから健側の腕を袖に通せばなんとか着用可能です。専用の下着は入院中や診察で創部を医師や看護師に見せる必要があるときのために前開きの胸帯が1枚あれば十分です。退院後は、カップ付きのタンクトップやスポーツブラのように下から履いて引き上げて着ることができるタイプのものは、着脱時に腕を上げる必要もないので楽で便利でした。一般向けの商品でも綿素材で縫い目が少ないカップ付きのタンクトップやスポーツブラがあって、乳がん患者向けとして販売されている商品よりもはるかに安い価格で手に入ります。術後に放射線治療を受けたときには、胸帯は前合わせの箇所や縫い目などの硬い部分が皮膚に当たりこすれて痛いためカップ付きのタンクトップやスポーツブラ以外は使えなかったので、活用度が一番高かったといえます。治療が一段落してくれば、手術前に使用していたブラジャーでもワイヤーなしのものはそのまま使えますし、ワイヤー入りのものでも自分でワイヤーを抜けば使うことができます。

手術で痛めつけられた肌のお手入れの方法やコツについては、こちら↑で詳しくご紹介しています。

乳がんでも介護保険が使える

 乳がんが原因で介護や支援が必要になった場合、40歳以上の介護保険*²の加入者は1~3割の利用者負担額*³で介護サービスを利用することができます。ただし、40~64歳の場合は条件もあります。例えば、リンパ節郭清で腕が上がりにくくなったりリンパ浮腫が起きたりした場合には、訪問サービスの家事援助が受けられると助かるかと思うのですが、同居する家族がいる場合は原則受けられません。

退院後に自宅で受けられる介護サービスの種類
(10-5)自宅で受けられる介護サービスの種類(厚生労働省HPより引用)

 介護サービスを利用するには、審査によって要介護・要支援認定を受けることが必要です。審査結果がでるまでに30日程度かかります。乳がんの手術の場合はリンパ浮腫*⁴など起きず術後の経過が順調に30日も経てば、痛みも少なくなり新しい身体の使い方にも慣れてきます。他の補助療法などによる重い後遺症がないのであれば、術後31日目以降よりも30日目までの方が支援を要するというのが実際のところです。

 申請や相談などの詳しい内容は、管轄の地域包括支援センターや市区町村役所の介護保険課にお問い合わせください。

注釈・参考文献:
*¹ 医療機関による
   乳房再建について(乳房再建ナビ)
*² 介護保険について(厚生労働省HP)
*³ 介護保険の利用者負担額
   65歳以上: 1~3割(所得による)
   40~64歳:1割
*⁴ リンパ浮腫
 リンパ節郭清を行った場合に、手術後にリンパの流れが悪くなり、手術を受けた側の手・腕・胸・背中がむくんだり腫れたりする後遺症がでることがあります。
 リンパ浮腫について(国立がんセンター「がん情報サービス」)

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