がんの三大治療のひとつである放射線治療では治療期間中は週5日病院に通い照射を受けることになります。その治療費は一体いくらになるのでしょうか? 放射線治療1回あたりの費用や自己負担の費用を抑えるためのポイントを、乳がん治療を経験したファイナンシャルプランナーの目線からご紹介します。
乳がん治療での放射線治療
乳がんでの放射線治療は、手術後に周辺のリンパ節などに残っている可能性のある乳がん細胞を消失させて再発を予防することを目的として行われます。リニアックという大型の直線加速器で、高エネルギーの放射線(エックス線、電子線)を作り出して体外から照射します。
強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)*¹という治療方法では、専用のコンピュータで最適化計算をして、高い線量と低い線量の照射を同時に行うことができます。このIMRTを回転させながら行う回転型強度変調放射線治療(VMAT:Volumetric Modulated Arc Therapy)という方法もあり、心臓や肺に照射される線量を低減したり、再発リスクの高い部位への線量を増やしたりする目的で行うことがあります。この方法では部位ごとに最適な線量で多方向から放射線を照射することができ、より集中性の高い治療が可能になります。
放射線治療1回あたりの費用
乳がんの放射線治療では、体外から放射線を照射するのは1回あたり数分程度です。前後の着替えを含めても15分程で済みますが、平日の週5日間毎日行います。ですから、期間中は毎日病院に通うことになります。これまで標準的だった25回の照射だけでなく、最近では16回の短期照射の治療法があります。専門の医師によると、1回あたりの線量は多少大きいですが、治療の効果も副作用も25回照射の方法とほとんど変わらないそうです。照射で実際にかかった1回ごとの費用については、後ほど詳しくご案内します。
放射線治療を受ける前にまずは測定を行います。これは、毎回の照射位置がずれてしまわないように実際の照射時と同じく仰向けに横たわった姿勢でレントゲンやCTを撮りながら身体に専用のインクで基準線をいくつも引いてゆきます。そしてそれを元に照射の位置や方向、強度などを決めてプログラミングします。日々の照射前には横たわった姿勢の位置が正しいか確認しながら治療を進めますが、CTなどの画像撮影は毎回ではありません。そのことは1回あたりの費用が変動して毎回一定ではないことの要因にもなっています。
放射線治療を受けた身体はどうなるのか
放射線照射を受けている間は特に皮膚に痛みを感じたりすることはありません。照射した直後に起きる短期的な副作用としては、船に乗っているかのようなふらふらとした目眩のような感覚がしたり、眠気や疲れやすさを感じたりすることがあります。神経の専門医によると、神経へのダメージも大きいそうです。頻度は少ないですが、治療終了後2~3ヶ月の間に咳や発熱をともなった放射線肺臓炎が起きたり、手術で腋窩リンパ節郭清を行った場合はリンパ浮腫が起きることがあります。重大な副作用には放射線照射された肺などの別の臓器のがんが5年以上経ってから発生することもありますが頻度は少ないです。
短期的な副作用のなかで一番インパクトが強かったのは放射線照射を終了した3週間目あたりから出始めた皮膚炎の症状でした。照射部に日焼けのような症状が出るとは事前に聞いていましたが、まるで火傷のようでした。皮膚の赤みとともにヒリヒリとした痛みが出てきたなと思ったら日に日に増してゆき、適切なケアを続けていればそれから10日ほどでピークをつけます。痛みが引いたあとはかゆみが出てきて、褐色に変化した古い皮膚は徐々にはがれ、回復してゆきます。
次の写真は、照射開始日から4~8週目の日々の皮膚の様子です。上段の一番左から順に左から右方向へ向かって時系列になっています。2段目以降も同様に左から右へ時系列に並んでおり、5段目の一番右の写真が8週目の一番新しいものになっています。褐色の古い皮膚はその後も徐々に剥けてゆき、最終的に全てがピンク色の新しい皮膚になった後は、少しずつ通常の肌色になってゆきます。
高額療養費制度であまり知られていないこと
公的医療保険の加入者が利用でき、治療費の自己負担額を軽減できる制度に高額療養費制度*²があります。この制度では月間で自己負担する治療費の限度額が年齢や所得に応じて定められており、限度額を超えた部分は支払いが免除されます。公的保険と乳がん治療中の高額療養費制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
月ごとの限度額の計算は、限度額に達しない額の複数の受診や、同一世帯の他の方の受診の自己負担額を1か月単位で合算することができます(世帯合算*³)。70歳未満の方の場合は、同一世帯内で合算して計算できるのは自己負担額が21,000円以上の医療費です。個人の自己負担した額は医科、歯科、入院、外来で医療機関ごとに計算されます。
放射線治療を受ける場合に知っておくとよいことは
- 照射スケジュールをひとつの月内に収めて組むことでコストを抑えられる
- 院外処方で調剤薬局に支払った自己負担金は、処方箋を交付した医療機関に含めて計算する
放射線治療を受ける場合は、月末をまたがないように照射スケジュールを月内に収めることでこの制度の恩恵を最大限に受けることができます。16回照射は皮膚の副作用がひどく出てくる前に照射スケジュールを終えることができるというのも利点ですが、2ヶ月にまたがることが必至の25回照射よりもコストを抑えることができるのもメリットのひとつといえます。
すでに述べたとおり、放射線治療では皮膚にひどい日焼けのような副作用が出ます。終了後に綺麗な肌に戻すためには、皮膚の摩擦を避けることと照射開始してから継続的にしっかりと肌の保湿をすることが重要です。化粧品類よりも保湿力が高い処方薬の保湿剤は、健康保険の適用により1~3割(個人の自己負担の割合による)の自己負担額で手に入れることができますが、放射線治療でその月の限度額に達した場合は、同じ月内に処方してもらった保湿剤のコストの自己負担は実質ゼロとなります。1本あたりの価格はそれほど高額な薬ではありませんが、肌を守るために朝晩の使用で多くの量が必要になるので知っておくと助かります。
国民健康保険の場合は、高額療養費制度の該当月があると、請求に必要な書類を後日郵送で通知してきてくれますが(一部の地域では通知がないこともあるようです)、それ以外では自身の加入する公的健康保険ごとに決められた方法で自分から請求しなければいけません。高額療養費の請求は、該当月の翌月の初日から2年が経過すると、支給を受ける権利が消滅してしまいますから気をつけましょう。
*¹ 強度変調放射線治療について(国立がん研究センター がん情報サービスHP)
*² 高額療養費制度について(厚生労働省HP)
*³ 高額療養費制度の世帯合算について(東京都中央区HP)
高額療養費制度の世帯合算について(アストラゼネカHP)