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罹患時に生命保険に加入していないのは“失敗”なのか?【確定申告編】

罹患時に生命保険に加入していないのは失敗なのか?

 一般的にがんの治療にはお金がかかりますが、がん治療も例外ではありません。高額な治療費への備えといえば、医療保険やがん保険などの生命保険に加入するひとも多いかもしれません。50~100万円とも言われているがんの初期治療の自己負担額をカバーできる優れた保険商品も多くありますから、罹患時に生命保険に加入していて金銭的に救われた経験をもつひとも少なくはないでしょう。一方で、加入しているけれど果たして自分は得をしているのだろうか?という疑問を持つひともいるかもしれません。ファイナンシャルプランナーが、税金面からのアプローチでその疑問に迫ってみました。

Photo by Anelka on Pixabay

医療費控除のしくみ

 日本の税金は累進課税制度により、1年間の「所得」の額を基準にして税率が定められています。税制上の「所得」は「収入」からさまざまな控除がなされた後の額のことをいいます。つまり、控除によって課税対象が減りますから、その分税金の負担が減るというわけです。

所得税の税額票
(4-1)所得税の税額表(国税庁HPより)

 高額な治療費を支払った世帯の税金の負担が軽減されるしくみとして医療費控除*¹があります。医療費控除によって所得税などが軽減されますが、その恩恵を受けるには確定申告を行う必要があります。

 医療費控除で注意したいのは、かかった医療費の内、保険金などで補填された部分は控除されないという点です。控除できる額は、一年間で支払った医療費から保険金などで補填された額を差し引き、そこからさらに所得の5%か10万円のどちらか少ない方を差し引いた額とされています。控除前の所得が200万円以上の世帯は、1年間で支払った医療費から保険金などで補填された額を差し引いた額が10万円以上であれば医療費控除をするメリットがあることになります。

医療費控除額
(4-2)医療費控除額(国税庁HPより)

生命保険に加入しているとどれだけお得なのか

 控除の種類には「所得控除」*²と「税額控除」*³の2つの大きな分類があり、どちらの部類かによって控除のされ方に違いがあります。所得から「所得控除」を差し引いた後の金額(課税所得金額)に所得に応じた税率をかけて計算した税額から「税額控除」が直接適用されます。医療費控除は「所得控除」の内のひとつになります。生命保険に加入している場合は、一年間で支払った保険料を課税対象から控除できる生命保険料控除も受けることができますが、こちらも「所得控除」の内のひとつになります。ですから、生命保険の保険料を支払うことで生命保険料控除によるメリットを毎年受けることができますが、保険金を受け取ったらその分の医療費控除のメリットは失うことになります。

 では、保険に加入していることで差し引きどれだけメリットを受けているのかという疑問を抱くひともいるかもしれません。それは個人の収入や加入する保険により、一概には言えません。

 イメージの手がかりの例として、50~100万円とも言われている乳がん治療費をカバーする目的で、100万円の保険金が支払われる保険に月々の保険料1万5千円で加入した場合の所得税の節税効果を考えてみましょう。年間で支払う保険料は、1万5千円×12ヶ月で年間18万円になります。保険加入後に罹患して100万円の治療費を支払った場合、生命保険料控除によって得られるプラスの節税効果と医療費を保険金で補填することで失う医療費控除のマイナスの節税効果を天秤にかけてみると、保険加入後5年を超えたあたりで差し引きゼロになります。(4-5)ですから、6年目以降から保険に加入する節税効果が少しずつ出てくることになります。

がん保険の節税効果
(4-5)節税効果シュミレーション

 別の見方をすると、加入後5年未満で罹患して保険金を受け取ると、医療費控除を受ける機会を失い、節税効果としてはマイナスになります。しかし、5年目までに支払う保険料は受け取る保険金100万円よりも少ないですから保険金を受け取るメリットが大きく上回り、節税効果というよりも治療費をカバーするという生命保険本来の目的を満たすことができる唯一のパターンになります。

医療保険・がん保険以外にもある治療費への備え方

 医療保険・がん保険などの生命保険の大きな利点のひとつには、その手軽さがあると思います。契約後は月々の保険料を支払うだけで、支払事由に該当すれば保証された保険金が支払われます。近年では、罹患したらかかるであろう治療費を現代の医療状況から想定して保証内容に反映させた低価格で優れた保険も多くあります。

 しかし、それは保険会社による想定であることを忘れてはいけません。基本的に保険というのは、保証の手厚さを求めると支払う保険料も多くなるものです。楽してお金をくれるひとなどいません。月々の保険料を保険会社に託すのではなく、自分で貯蓄や投資をして運用するという選択肢も考えてみるのもひとつの方法ではないでしょうか。

 パッケージ化された他者からの提案で受け身の対策といえる生命保険に対して、投資をして自分で運用するというのは攻めの対策ともいえます。投資にはリスクもつきものですから、怖いというイメージを持つひとも多いかもしれません。実際のところ、それは正解であり、不正解でもあります。というのも、比較的安全に投資で運用する方法もあるからです。人は分からないものに対して大きな恐怖を抱きます。ですから、投資を勉強して“知り”、安全な道を選べばよいのです。

 病気の治療費に備える方法はひとつではありません。その他の方法も知って、自身にあった方法を見極めましょう。


*¹ 医療費控除について(国税庁HP)
*² 所得控除について(国税庁HP)
*³ 税額控除について(国税庁HP)


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