当サイトのページには、広告・PRが含まれることがありますが、中立的な視点に基づいたコンテンツを提供しています。

「死の5段階」には自分を成長させるヒントがたくさん詰まっている

「死の5段階」には自分を成長させるヒントがたくさん詰まっている

 精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスは、病院で最期を迎えようとしている末期患者のカウンセリングをしながらインタビューを重ね、人が病によって死に至るまでの過程は5段階の心理的ステップがあることを論じました。この“死の5段階”について綴った著書『死ぬ瞬間 死と死の過程について』(エリザベス・キューブラー・ロス著、鈴木晶訳、中央公論新社、原著『On Death and Dying』)をがん治療経験者の私が読んでみたら、“死の5段階”をたどることは人として成長するために必要な道のりと共通するものがあることに気づきました。“死の5段階”を学ぶことで、ターミナルケア(末期医療)に関わる人たちのみならず、キャリア構築や自分の目標を達成してより満足度の高い人生を送りたい人も自分を成長させるのに役立つヒントが得られます。

死ぬ瞬間 死とその過程について (中公文庫 キ5-6) [ エリザベス・キューブラー・ロス ]

価格:1,210円
(2021/8/20 09:42時点)

【広告】

「死の5段階」とは一体なにか

 死から逃れられる人は誰ひとりとしていません。この避けられない出来事を目前にしたときにどの自己防衛メカニズムを働かせる人間なのか、それが全てです。

 全ての人は無意識のなかで「自分にかぎって死ぬことなんて絶対にありえない」という基本認識を持っているそうです。ですから、その心理は「否認と孤立」から始まり「怒り」、「取り引き」、「抑鬱」を経て、「受容」に至ることによって安らかに死を迎えることができるといいます。

 この“死の5段階”を順調にたどるのを阻むのはそれぞれの個人のもつ強迫観念、すなわち、避けられない出来事に出くわしたときの無意識の自己防衛メカニズムです。どのようにして自分を守るのかは、子供のころからの生育環境のなかで身につけた思考や行動の癖のようなものですから人それぞれです。子供のころに自分に不都合な出来事が起きたときに不快な感情から逃れるのに成功したパターンに自ら気づき修正しない限り、大人になっても無意識にそのパターンを防衛メカニズムとして使い続ける傾向があります。

癌などの重病を告知された後の心理「死の5段階」について綴ったエリザベス・キューブラー・ロスの著書『死ぬ瞬間 死と死の過程について』--「死の5段階」には自分を成長させるヒントがたくさん詰まっている
『死ぬ瞬間 死と死の過程について』(エリザベス・キューブラー・ロス著、鈴木晶訳、中央公論新社、原著『On Death and Dying』)

人生の最期に必要になるものはなにか

「死は死に至る過程が終わる瞬間にすぎない、と言ったのはモンテーニュではなかったか。患者にとって死そのものは問題ではなく、死ぬことを恐れるのは、それに伴う絶望感や無力感、孤独感のためである」

(『死ぬ瞬間 死と死の過程について』P.435より引用)

この論理から逆算すると、死に伴う絶望感や無力感、孤独感を克服すれば、安らかに死を迎えられるということになります。

 では、死に直面したときの絶望感や無力感はなにに対して感じるのでしょうか。

 末期患者へのインタビューを重ねてゆくと、最終段階の「受容」まで容易に到達できるふたつの道があったといいます。ひとつは、「苦労を重ねて働いて子育てもして人生の終着点に近づいていると感じている高齢者」で、もうひとつは、「自分の人生の意味を見いだしている人」です。死に至らしめる病へ抗うことができないことへの無力感は誰にでも思いつくかもしれません。しかしそうとは分かったつもりでいても、実際に自身が病気になると健康だったときには当たり前にできていたことが次々にできなくなってゆくのにショックを受けることでしょう。人の手を借りなければ生きてゆけない乳幼児期と同じ状態に戻ると彼女は表現しています。

「こうして、労働し、施し、苦楽を積み重ねてきた人生の終着点で、私たちはその初めの時期に立ち返り、人生という還が完結するのである」

(『死ぬ瞬間 死と死の過程について』P.203より引用)

 「死ぬときはみな同じ」という状況を目前にしたときにいちばん惨めなのは、金持ち、成功をおさめた人、支配欲の強いVIPなのだそうです。お金も名声もあの世にはもってゆけないことは確かです。しかし単純にお金や名声の有無の話ではなく、稼いだお金に意味があったのか、どんな成功の仕方をしたのかというところが重要なのではないかと私個人としては思います。私自身ががんの宣告を受けたときにふと思ったのは、「誰かに恨まれたり嫌われたりして人生の終わりを迎えるのは嫌だな。それよりも、世の中や誰かのためになることをして感謝されて終わったほうがいい」ということでした。それまで生きてきた日々の行いに意味があったことがはっきりしているのかどうかが、死を完全に「受容」できるかどうかのポイントになるのではないかと思います。それは日々の活動の目的がどこにあったのかということでしょう。仕事として成功をおさめて個人として大金を得たけれど、それによって世の中がよくなったりしたことが誰の目にも明確なのであればそれは意味のあることですから、死に際にむなしくなることなどないはずです。

 死ぬまでの間に順調に“死の5段階”の最終地点「受容」に至ることができると、諦めの境地とは違った「恐怖も絶望もない存在となって亡くなってゆくことができる」といいます。

 人というのは所詮みんな独りです。あの世へは独りで逝かなければいけません。人気者になることにそれまでの日々を費やしてきたのだとしても、あの世まで誰かに一緒についてきてもらうことはできません。この大前提を根本的に理解しているかどうかは重要です。家族や友人に恵まれた有意義な日々をそれまで送ってきた人であっても、最期は家族を含めたこの世の人たちの世界から徐々に自分を切り離していく段階が必要になるのです。

自分を成長させるものとは

 医療従事者、すなわち健康な人の目線から患者心理を追求したこの本を患者側にいる私が読んでみると、思わぬ発見があります。末期患者に目の前で死なれると医療従事者は自分の力の及ばなさを感じて落ち込むのだろうなというのは想像できますが、「面当てをしているように思えて腹立だしい」とまで感じるとは思ってもいませんでした。

「自分自身を正直に見つめることは成長・成熟を大いに助ける。そしてその目標を達成するには、重病患者、年老いた患者、死の迫っている患者に接する仕事に勝るものはない」

(『死ぬ瞬間 死と死の過程について』P.84より引用)

死というものを目前にしたときに人の本質はむき出しになります。それは患者自身の本質だけでなく、それに反応する周囲の人たちのものも露呈します。

「結局、死に対する自分自身の強迫観念にきちんと対応してきたセラピストだけが、患者が迫りくる死に対する不安と恐怖を克服するのを粘り強く愛情をもって助けるという役目を果たすことができるのだ」

(『死ぬ瞬間 死と死の過程について』P.81より引用)

 避けられない出来事というのは死に限ったことではありません。人は人生のどこかで必ず避けられない出来事に遭遇します。それを目前にしたときに、現実から目をそらさずに直視してそれと向き合うことができる人なのかどうかというところが、成長する人と成長しない人を決めることになります。自分が得意な防衛メカニズムのパターンに逃げてそれまでの自分を守ることばかりしていたのでは成長などできないのです。自分にとって不都合な出来事を「否認」して受け入れるのを放棄し続ける人は、成長する機会も放棄していることになります。

生きるために必要なもの

 それでも「否認」は、重い病気の初期ではむしろ必要なプロセスなのだといいます。「否認」という防衛メカニズムは、予期しないショッキングな知らせを受けたときにその衝撃をやわらげて冷静に考えるために役に立つ自己防衛法ですが、それはそのときの一時的なものに過ぎません。そして、この「否認」は死を受け入れた後も時折でてきます。人は死をずっと直視し続けていることもできないものなのだそうです。自分の死を否認するということは、まだ生への望みを持っているということになりますから、生き続けるためには必要なことなのです。

 私は自分の人生の意味は一体どこからくるのかということは後付けで、それは後になってわかることだと思っています。過酷な乳がんの治療の副作用に苦しみながら私は、「それでもお前は生きるのか」と運命に試されている気がしました。アイデンティティーというものはそれまでの自分を破壊されて無力感に苛まれたあとで、めきめきとその姿を現わすものなのだなと感じました。それまで生きてきたなかで、なににどれだけ苦労して、そこからなにをどれだけ得られたのかというのが、その人を造っています。それを奪われた後の悔しさを味わい、「こんなことで奪われてたまるか」という気持ちで「自分とはこれだ」というものを取り戻そうと奮い立たせるのは「闘志」です。闘病という言葉はありますが、闘っている相手は病ではないと思うのです。もちろん他人と闘うことでもありません。そして「希望」がなければ無理です。それらは生きるための強いエネルギー源になります。

 それまでの自分にとって不都合な現実を直視するのには「勇気」が要ります。しかし、それは確実に人間を成長させてくれます。死以外の不都合な現実には逃げ道があることも多いですが、死から逃れられる人は誰ひとりとしていません。現在は健康であっても“死の5段階”を学び、安易な自己防衛メカニズムを使って無駄に逃げ回るだけの人生を止めることで、その先にある自身の死に直面するときまでの日々をより有意義に過ごせることは間違いありません。

死ぬ瞬間 死とその過程について (中公文庫 キ5-6) [ エリザベス・キューブラー・ロス ]

価格:1,210円
(2021/8/20 09:42時点)

【広告】

スポンサードリンク