民間の金融機関で住宅ローンを利用するときには加入しなければいけない団体信用生命保険(以下、団信)は、死亡や所定の高度障害状態などの一定の事由に該当したらそれ以降の住宅ローンの支払いが免除になる保険ですが、保証対象にがんが含まれる団信ならば女性にとってさらにお得感のある保険であると言えます。その訳をファイナンシャルプラナーの目線からご紹介します。
団信の種類
団信には、一般団信、ワイド団信、疾病団信の3種類があります。ワイド団信は加入条件が一般団信より緩和された団信ですが、保証対象は一般団信と同じく死亡や高度障害状態です。住宅ローンの契約者が死亡や高度障害状態になったときに、それ以降の住宅ローンの返済が免除されます。金融機関によって、一般団信に特約でがんなどの疾病を保障の対象に加えられるものもあります。疾病団信には、がん保障、3大疾病保障、8大疾病保障、11疾病保障、全疾病保障があります。がんへの保障は、がん保障団信以外の疾病団信にもその他の疾病と一緒に保障対象に含まれている場合も多く、保障内容と自身のリスクを照らし合わせて選択することができます。
住宅ローンが免除になるしくみ
団信がお得な保険といえる訳は、その保障の大きさと費用負担にあります。団信へ加入している住宅ローン利用者は、一定の事由に該当したらそれ以降の住宅ローン残額は支払いが免除されます。保険料の負担は金融機関が行い、一般団信の場合の利用者側のコストはローン金利に含まれていることがほとんどで実質無料になります。疾病団信の一部にもこのタイプがあります。有料の場合は、ローン金利に団信コスト分の金利を上乗せするタイプと、通常の生命保険のようにローンの返済とは別に保険料を支払うタイプがあります。保険料をローンとは別枠で支払うタイプの場合は中途解約することが可能です。金利上乗せタイプの場合は一般的に0.1~0.4%程度の上乗せです。金融機関によりますが、無料もしくは低コストで大きな保障を受けられるわけですから、団信は利用者にとってとってもお得な保険であるといえます。
なぜ、そんなにお得なのかというと、理由はそのしくみにあります。
団信では、住宅ローン利用者を被保険者としたローンの貸し手である金融機関が保険契約者および保険金受取人の保険契約であるというのがポイントです。保険契約者は金融機関なので、保険料は金融機関が保険会社へ支払います。住宅ローン利用者に一定の事由が発生した場合には、その時点の住宅ローン残高相当分の保険金を生命保険会社が保険金受取人である金融機関に支払うことで住宅ローンが完済されるというしくみです。団信は民間の金融機関が提供する住宅ローンを利用する場合には基本的に加入が必須です。金融機関としても、貸したお金が返ってこない状況は避けたいところなのです。
例外と注意点
団信の加入には注意する点がいくつかあります。
注意点1――団信に加入できない場合がある
持病などで一般団信の審査に通らなかった場合は加入することができません。その場合は、以下のようなその他の方法を検討することになります。
1 ワイド団信に加入する
加入条件が一般団信より緩和されたワイド団信に加入できる場合もあります。団信は通常の生命保険と同様に過去3年間の病歴、治療歴を告知する必要がありますが、持病の治療歴や症状などにより保険会社所定の個別の引受審査を受けて通れば加入できます。
【ワイド団信のデメリット】
- 一般団信よりもコストがかかる(0.3%程度の金利上乗せが必要)
- ワイド団信の取り扱いのない金融機関もある
- 金融機関などによって加入時の年齢制限がある場合がある
2 収入合算でローンを組み配偶者が団信に加入する
住宅ローンには、単独で組む以外にペアローンや収入合算で組む方法もあります。ペアローンは一定の収入のある同居親族ふたりのそれぞれが主たる債務者としてお互いの連帯保証人となり住宅ローンを組む方法で、収入合算は一定の収入のある親族の収入を主債務者の収入に合算する方法です。収入合算する側に万が一のことがあっても返済はそのまま継続するというデメリットがありますが、団信に加入する主債権者に万が一のことがあった場合には債務免除されます。
3 フラット35を利用する
フラット35などの住宅金融支援機構が提供している住宅ローンは、団信の加入が任意となります。団信の加入なしで通常の生命保険を利用する方法もあります。
注意点2――病気になっても保険金が支払われない場合もある
疾病団信は特定の疾病について、所定の状態になれば死亡していなくてもその後のローン返済が免除されますが、加入するときには保険金の支払要件に注意する必要があります。というのも、たとえば脳卒中や急性心筋梗塞などでは、60日間就労できなかった場合などの条件がついていることがあるからです。また、同じ疾病の保障でも保障内容が異なるものがあるので保障範囲の事前チェックは大切です。例えば、がんと診断されただけでそれ以降のローンの支払が免除になるものと、がんと診断されてから1年以上就業不能状態が継続しなければ支払免除にならないものがあります。同じがんへの保障でも、3大疾病保障はがん・急性心筋梗塞・脳卒中の3つの疾病に特化している分、広範囲の疾病をカバーしている全疾病保障などと比べると手厚い保障を提供する傾向があるようです。
女性にとっての団信加入
住宅ローンの利用者でパートナーのいる世帯では、両方が定年までフルタイムで働く場合、片方が時短やパートタイムで働く場合、片方が専業主婦・専業主夫をする場合、のうちどのような働き方をするかによって、女性も団信に加入した方がよいパターン、加入しない方がよいパターン、そもそも加入できないパターンがあります。
ペアローンを組む
両方が定年まで正社員で働く場合は、収入合算以外にペアローンの選択肢もあります。ペアローンは主債権者がふたりの2本の契約ですから、どちらの債権者も団信に加入することができます。ペアローンはそれぞれが税金の控除申請ができて大きなローン借入額を設定できるというメリットがありますが、事務手数料負担の増加や離婚することになったときに頻雑になりやすいというデメリットもあります。ペアローンではどちらかに万が一のことがあった場合、債務免除はその契約1人分のみになるという点にも注意が必要です。
片方が時短やパートタイムで働く場合には、パートナーを主債権者とした契約の連帯債務者として収入合算する方法と、パートナーを主債権者とした契約の連帯保証人となる方法があります。
連帯債務者になる
収入合算で連帯債務者になると、連帯債務者は主債務者と同等の返済義務を負うことになります。連帯債務者は主債務者と同様住宅ローン控除を利用することもできます。基本的に収入合算の場合は、民間の金融機関では収入合算される側の主債務者しか団信に加入できません。住宅金融支援機構の「デュエット(夫婦連生団信)」など、 夫婦2人で加入することができる制度もあります。
連帯保証人になる
パートナーが主債権者となって1本の契約の返済義務を負い、もう片方がその連帯保証人となります。片方が専業主婦・専業主夫をするケースはこのパターンになります。条件によっては収入合算を利用できる場合もあり、片方が時短やパートタイムで働きに出る場合の選択肢にもなり得ます。連帯保証人は債務者が住宅ローンを返済できなくなった際に代わりに返済義務を負いますが、直接債務を負っているわけではないため住宅ローン控除や団体信用生命保険に加入することはできません。
女性ならばさらにお得?の訳とは
主債権者の死亡・高度障害状態によって残された家族への債務免除がされる一般団信でカバーできる場合以外の万が一の場合というのはどのような場合なのかという観点からみると、疾病団信がその威力を発揮するのは主債権者の収入が病気によって長期間に渡って減ったり途絶えたりするケースです。現代の医療では、過去には致命的ととらえられていたがんなどの病気でも治療が可能になっていますが、健康だったときと全く同様に働けるとも限りません。疾病団信を選ぶときには、治療しながら生きる期間が長くなる傾向が強まった病気の保障が手厚い団信に絞って選択するとよいかもしれません。
特に、高齢でがんの罹患リスクが増加する男性に比べて、女性ホルモンが関係する場合も多い婦人科・乳腺科の女性のがんは、近年急速な増加傾向にあり、40歳代から罹患者数が増えてくるという特徴があります。日本人の乳がん罹患数は1995年から2017年の20年で31,174例から104,379例(女性103,675、男性704)へと約3倍に増えており、2017年の女性のがん罹患数では1位*¹です。日本人女性が生涯で乳がんに罹患する確率は、9人に1人という計算*²になります。現代の女性は、子育てや仕事で働き盛りの世代に罹患するリスクが高い上に、治療後の生活が長くなるというリスクも抱えているのです。
その反面、罹患年齢が若ければ若いほど、免除になるローン残高相当額は大きくなります。よって、がん保証のある団信は、女性であればさらにお得感のある保険であるとも言うことができます。それぞれの望む生き方によって、団信のがん保障も賢く選択したいものです。
しかし、万が一のときの不安、とりわけ、がんなどの大きな病気になったときにお金の不安がひとつ減るというのは、とても心強い保証であることには違いありませんが、なによりも健康でいられることが一番です。「転ばぬ先の杖」で終わる以上に喜ばしいことはない、ということは言うまでもありません。